断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
ルナにわたくしのドレスを着せた後、一番信頼出来るメイドのリラを呼んで、ルナが人間で高貴な身分だった事を打ち明ける。
初めは物凄くびっくりしていたけれど、ルナの付き添いを心より引き受けてくれて、すぐに馬車の手配をしてくれた。
わたくしはありったけの金貨と使わない宝石をルナに渡すため、声をかけた。
「ルナ、これ持っていって」
「え? こんなの貰えないわ!」
「いいから。何かとお金がいるでしょう?」
「でも……」
貰い渋るルナに、メイドのリラが口を開いた。
「ルナさま、ヴィクトリアお嬢さまのお気持ちです。受け取った方がよろしいかと」
「……分かったわ。有り難く頂戴します」
「ヴィクトリアお嬢さま。裏口に出発の用意が出来ました」
「リラ、ありがとう。悪いけどルナの案内を頼むわね」
「はい。終わりましたら、またヴィクトリアさまの元へお戻りいたします」
流石に裏口から出発するルナを見送ることは出来ない。なるべく騒ぎにしたくはないからだ。ルナに黒いローブを肩にかける。フードを被らせればルナの綺麗なお顔が隠れた。
「ルナ。また何処かで会いましょう。元気に過ごすのよ」
「何から何までありがとう。でもヴィクトリア、本当に一緒に来ないの?」
「ええ。わたくしは、どんなジャックさまでも愛しているもの」
一晩寝てすっきりした頭で考えたら、おのずと答えが出た。例えジャックさまがわたくしを監禁しようとも、愛故。
わたくしを閉じ込めることで、ジャックさまが安心するのならば本望。
それに――。
「わたくしの心は、もうジャックさまに囚われているの。だからなんの問題もないわ」
むしろ、そこまで愛してくださるだなんて。ジャックさまを独り占めできそうだと、仄暗い感情も芽生えてくる。
「……ヴィクトリアが良いなら仕方ないわね」
「ふふ。せっかく誘ってくれたのに、ごめんなさい」
「それでは行くね。ヴィクトリア、幸せになって」
「ルナこそ。手紙を書くわ」
ルナを抱きしめて別れを告げる。暖かい体温が離れると、寂しくて堪らない。
どんどん遠くへ進むルナの後ろ姿を見ると、彼女の人生をも前に進んでいる気がして嬉しくなった。自分の未来を切り拓いていくルナを見て、わたくしも頑張ろうと強く思えた。