断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
馬車の中も終始離れず、皇城の中に入ってもエスコートされて手のひらを預ける。それだけかと思いきや、腰に腕がまわって引き寄せられる。抱きしめられたことは何度もあるけれど、数多く人がいる皇城で堂々と密着する様がとんでもなく恥ずかしくて堪らない。
我慢できず耳まで赤くなると、ジャックさまが耳元で囁く。
「ヴィー、駄目じゃないか。衆人の前でそんなに可愛い顔を晒してはいけないよ」
「ジャックさまとこんなにも触れ合っているのですもの。照れてしまいますわ」
か細い声で紡がれた言葉は、ジャックさまの耳に入る。その直後にジャックさまが周りをゆっくりと見渡す。
すると瞬く間に集まっていた人達が、見事に散っていった。ジャックさまは何をしたんだろうと不思議に思うも、どんどんと歩みを進めるものだから振り返ることはできなかった。
奥へ奥へと入りこんで、皇宮を通り過ぎた後も、まだ進む。奥に進むごとに自然が多くなって、秋の枯れ葉を踏むと小気味良い音がサクサク鳴る。
(もしかして、この先って……)
ここは皇子妃教育で来たことがある。行き先は思った通り、贅を尽くして作られた後宮のようで。白亜の門をくぐると、手入れの行き届いた庭園に、煌びやかな装飾、そして少人数の使用人が列をなして頭を下げていた。
「これからここで暮らそう。全部ヴィーのために用意させたんだ」
よく見たら、わたくしの好きな薔薇が沢山咲いている。ふんわりと華やかな香りが漂ってきて、気持ちが穏やかになる。それに、装飾もわたくし好みに変わっている。以前来た時よりも随分と印象が変わっていて、わたくしのためにジャックさまが用意してくれたと伝わってくる。
「ジャックさま、ありがとうございます……!」
「感謝しないで。これから君を閉じ込めるんだから」
「それでも、嬉しいのです」
別にジャックさまに閉じ込められたって構わない。だって今まで愛のない結婚をすると思っていたのだもの。
何だか、これからジャックさまの妃になれると実感が湧いてきて胸が熱くなる。
「……ヴィーは本当に可愛いな。早速だけど中へ入ろうか?」
「はい」
中へ入ると、大広間へと案内された。
そこに用意されていたのは、純白のウェディングドレス。縫い付けられた紫水晶がキラキラと輝いている。
これは誘拐される前に試着しようとしていたものだ。
「わあ……! ウェディングドレスまで用意してくださっていたのですね」
「バタバタしてしまって試着出来なかっただろう? 疲れていなかったら、僕にヴィーの美しい姿を見せてほしい。もちろんあんな事が起こったし、今日でなくてもいいけれど」
そんなこと仰られては、早く着てお見せしたくなる。
「お部屋まで案内してもらった後、早速試着をしたいです」
「ありがとう、ヴィー。すごく楽しみだ」