断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
19.甘い口付け
ジャックさまが用意してくださったお部屋は後宮で一番広い皇后の間だった。品の良い家具に、窓からは美しい薔薇の庭園が眺められる。
現皇后さまは元々後宮を使われていなかったから、わたくしが利用しても構わないそうだ。きっとイーサンのことがあったからこそ、この部屋をくださったのだと思う。
侍女は皇子妃教育の時に手伝ってくれていた昔からの顔見知りたちだったから安心した。
早速ウェディングドレスを侍女達に着せてもらうことになった。
「ヴィクトリアさま。此度は幸せな結婚となり、私たちも誠に喜ばしく思っております」
「ふふ、まだ試着で結婚はしていないのに」
「それは失礼いたしました。しかし、ヴィクトリアさまは本当にジャック皇太子殿下に愛されているのですね」
「そうね。驚いてしまうほどよくしてくださっているわ」
「まさかこの後宮全体に守備の魔法をかけるよう、貴重な魔道士さまに発注するだなんてびっくりしました」
「ええっ?」
「あら、ご存じなかったのですか。血の誓約を果たした使用人とヴィクトリアさま、ジャック皇太子殿下しか入れないように結界を張っているのです。この中はとっても安全ですよ」
「まあ」
血の誓約というと、誓約書に血液を垂らして魔法で裏切れなくすること。誓約内容を違えたら最期、死をもって償うという厳しいものだ。
「血の誓約だなんて、皆さん大丈夫だったの?」
「もちろん。ヴィクトリアさまのことはお慕いしておりましたし」
「それにここにいる人間は誰もがジャック皇太子殿下によって救われた人たちですから」
「人数が少ない分、お給金も多くいただいて。本当に助かっています」
「そうだったのね、ありがとう。改めてこれからよろしくお願いするわ」
とりあえずここにいる限りはまた攫われることもないのだろう。様々な人が出入りする皇城にも関わらず、こんなにも安全な場所を用意してくださるだなんて、ジャックさまには感謝が絶えない。
(しかし、皇子妃教育を受けていた頃はイーサン殿下の婚約者候補だったのに。なぜジャックさまの息のかかった侍女をあてがわれていたのかしら?)
そんな疑問を抱きつつも、雑談しながらウェディングドレスの着付けが整った。流石は皇城の、ジャックさまが目をつけた侍女たちだ。
鏡の前に立つと、真っ白なドレスに縫い付けられた紫水晶が輝きを放っている。用意されたジュエリーは、ドレスに負けずに蝶をモチーフとした豪華な物を身につけた。ティアラはまだ完成していないようで、まだ手元にない。
「試着は問題なさそうですね」
「ええ。サイズも問題ないし、デザインも思ってた以上で素敵だわ」
「承知しました。それではジャック皇太子殿下をお呼びしてまいりますね」
「ありがとう」