断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる

20.ヴェールに隠された花嫁【完】

 


 季節はうつり変わり、細雪が空から降り落ち、地面に溶けていく。
 足元が悪い中、皇城にある聖堂では、族や高位貴族の顔ぶれが揃っている。

「ヴィー。何度見ても美しくて皆に披露したくはない」
「ふふっ、ヴェールで隠れてるのですもの。わたくしの顔は周りの方へ全く見えませんわ」

 後宮に住み始めてから、ジャックさまの独占欲が一気に増したように思う。仄暗い感情が見え隠れすることが多いけれど、そこから深い愛を感じてしまうのだから浸ってしまう。
 今もなお、控え室でわたくしを披露したくないジャックさまが駄々をこねていらっしゃるのだから、笑みが溢れる。

「ほら、皆さまお待ちですよ」
「絶対にヴェールを外さないね?」
「ふふっ。分かっております」

 ジャックさまが渋々と手を差し出されると、わたくしは嬉々として手を重ねる。
 ――今日はとうとう結婚式。ジャックさまの妃となる日。


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「ジャック皇太子殿下。ヴィクトリアを自らの妃として我が皇族に迎える事を認めるか?」
「はい。認めます」
「ヴィクトリア。我が皇族となった暁にはジャックを支えることを誓うか?」
「はい。誓います」
「これにてヴィクトリアは我が皇族として認められた。ティアラを授けよう」

 皇帝陛下より、ティアラを頭に被せられる。大きな拍手で祝福される。ジャックさまがわたくしの手を取ると、拍手は綺麗に止む。
 ダイヤモンドの指輪を左手の薬指にはめられると、ジャックさまは愛を紡ぐ。

「これからの人生、如何なる時もヴィクトリアだけを唯一愛し、守り抜くことを指輪に誓おう」

 指輪にキスを落とされると、ヴェールの中のわたくしの顔は真っ赤に染まる。練習していたとはいえ、ジャックさまの蕩けるような眼差しで見られると心臓が止まりそうになる。
 それでも震える手でジャックさまの指輪を取り、左手の薬指にはめる。彼の手にはわたくしの蒼い瞳色のサファイアが光る。

「ジャック皇太子殿下だけを愛し、共に国を守る事を指輪に誓います」

 わたくしもジャックさまの指輪へキスをすると、溢れんばかりの拍手が鳴り響いた。
 指輪への誓いはジャックさまの提案で、側室を置かないと宣言するためのもの。それがロマンチックだと後に結婚式での指輪交換が大流行したそうだ。


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