断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる

「一体、どういう事でしょう。婚約者になるものがいるのに、辺境で作った恋人がいらっしゃって、そのお相手とご結婚されたいということなのかしら?」
「白々しいな、ヴィクトリア。君はリリアンに嫉妬し、強姦を指示していたんだろう」
「強姦ですって? 何故私がそんな面倒な事を。そもそもこの婚約は王家と公爵家の血の繋がりを強固にするため望まれた物でした。結婚を約束されているのに何故私がそのように面倒な事をする必要があるのです?」
 
 そんな時間があるのだったら、ジャック皇太子殿下の覗きをしているわよ。本当にどうしようもなく馬鹿な男ね。
 
「よく回る口だな。お前以外に誰がそのようなことを計画するというのだ」
「つまり証拠はないのに、身に覚えのないわたくしを責め立て、犯罪者にしようとしていると」
 
 そもそも強姦にあっただなんて……、想い人が処女を失ったという醜態をよくパーティーで公言するわね……。ここまで単細胞の馬鹿だと思わなかったわ。馬鹿らしくて目もあてられない。
 
「婚約の取りやめについては承知しました。ですが、裁判をするのならば公平な判断が出来るような人選をお願いしますね」
「裁判をするまでもないよ」
 
 コツコツと優雅な足音を立てて現れたのは、第一皇子であらせられるジャック皇太子殿下だ。
 イーサン殿下はかなり頭が弱いけど、ジャック皇太子殿下は秀才と言われている。そんなジャック皇太子殿下が裁判するまでもないとおっしゃっている。
 
 ――もしかして、わたくしは、ジャック皇太子殿下にも断罪されるのだろうか。
 
 イーサン殿下のことは別に慕っていないので婚約がなくなったところで、わたくしには問題ないけれど。ジャック皇太子殿下については何をされるのか、想像も付かず、恐ろしくて手が震える。
 
「兄上が味方してくれるだなんて心強い」
「ふふ、馬鹿な弟がいると困るね」
「きゃあああ」
 
 ジャック皇太子殿下は、リリアン様の白いドレスに向かってグラスを投げる。必然と、赤ワインで白いドレスは、赤く染められていく。
 
「兄上、リリアンになんてことを……!」
「白いドレスは今日の主役であるヴィクトリア嬢しか似合わないからね。色を変えてあげたんだ」
 
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