断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
床にまでポタポタと赤ワインがたれている衝撃的なシーンに唖然とするも、平然としたジャック皇太子殿下は、こちらに向かって、歩みを進める。
「ヴィクトリア嬢、こんなに震えてしまって……。本当に申し訳ない」
「兄上!? なぜその女に……」
眉毛を下げて、子犬のような表情を作ったジャック皇太子殿下は、私の手をぎゅっと握る。ひいいい!! お美しいご尊顔が目の前に……!!
「もう安心してね。僕が守ってあげるから」と耳元で囁かれ、顔が赤く染まってしまう。うひゃああ……!
こんなに間近で、ジャック皇太子殿下の完璧なお顔を拝見して、手を握ってもらえて、天にも昇る心地だわ。まるで恋愛小説のヒーローのよう……!
興奮しているのを、表に出さぬよう、必死に隠していると、ジャック皇太子殿下が私の手を離し、片手を上げると声高らかに宣言した。
「衛兵! イーサン第二皇子と、リリアン男爵令嬢を捕らえよ! 公爵令嬢への侮辱罪で拘束とする」
「え? あ、兄上? そ、そんな……やめろやめろおおおおお」
「いやああああ!!! 触らないで!!!」
まるで打ち合わせでもしていたかのように、衛兵は迷いなく第二王子と男爵令嬢を拘束する。そして、ジャック皇太子殿下は、リリアン男爵令嬢を指さして、口を開く。
「――リリアン男爵令嬢は、複数の男と乱交をしていたことがイーサンに見つかって、咄嗟にヴィクトリアに嵌められたと言ったようだな? この罪、軽くないことを明言する」
「リリアン、それは本当なのか?!?!?」
「そんなの嘘よ!!!! なんで私がこんな目に……こんなはずじゃ……」
二人は衛兵に連れ去られ退場。パーティー会場は、混乱していたが、すぐに皇帝陛下によって収められた。