断罪された公爵令嬢は元婚約者の兄からの溺愛に囚われる
パーティーは開かれてまもなく解散となり、両親の元へ行こうと足を進めるが、手首を掴まれた。振り返ると、私を助けてくれた、ジャック皇太子殿下だった。
はうう……! イケメンすぎて罪……。でも眼福ですわ……! 手まで大きくて、ゴツゴツして素敵……!
「ねぇ、ヴィクトリア嬢。一緒に来てもらえる?」
「え、えぇ。勿論ですわ」
ジャック皇太子殿下に手を引かれて、会場を出ると、たどり着いた先は、私室のようだった。ま、まさか、ジャック皇太子殿下のお部屋じゃないわよね……!? 何だか良い香りがするのだけれど……!?
「あの、皇太子殿下……?」
「全く君は、僕のこといつも熱っぽい目で見ているのに、イーサンと正式に婚約しようとするなんてびっくりしたよ?」
「えっ」
遠くから覗きながら、心の中でイケメン拝んでいたのバレてた!? というかジリジリと皇太子殿下が迫ってくるのは何故ですの!?
身の危険を感じて、一歩、また一歩と下がると、同じ分だけ近づいてくる。ひいいい、顔が良すぎるよぉぉ。
とうとう殿下のヒジが、わたくしの顔横の壁にドンと、勢いよく突かれる。
「もう逃がさないよ。君は僕のものになったんだから」
「ど、どういう……? ジャック皇太子殿下は隣国の王女様と、ご婚約されていたのでは?」
「あぁ、王女なら死んでしまったから、婚約は無くなったんだ。心配いらないよ」
「死っ!?」
「君がヤキモチ妬いてくれるなんて嬉しいな」
会話が噛み合いませんね……? うわわわ、顔近い! どんどん近づいて……!?? 顔近すぎて無理、息できない。顔が百点満点だし、中低音の透明感のある声も良いってどういう事でしょう……!??
「僕たちの仲を邪魔する弟とあの女は、偽の情報を流したら想像以上に手のひらで踊ってくれたよ。ふふっ。陛下には弟に何かあればヴィクトリアとの結婚は僕が代わるって話がついているし、もう僕らを妨げる障害はないよ。安心してね」
ド好み顔が目の前にあって、緊張で息を止めていたからか、ボーッとしてきて、話は聞こえるが、内容が入ってこない。
「何事にも動じないお人形みたいなヴィクトリアが、僕の事になると感情が動いて息をするんだ。そんな君の事、愛しているよ。もっと僕で一杯にしたいな。ね、ジャックって呼んでみて」
「……うぁ、ジャック、さま……!」
「かわいいね。僕はヴィーと呼んでも?」
「はい」
ジャックさまは、目を細めると、わたくしの顎を持ち上げて、流れるようにキスを落として下さった。ジャックさまが私を好きだなんて信じられない……。
でも、わたくしはジャックさまのこと、好きになってもいいんだ。結婚出来るんだ。多幸感で胸がいっぱいになって、もう死んでもいいかもって、馬鹿みたいに心がふわふわとする。
「ヴィー、どうか僕以外をその綺麗な瞳に映さないで。君の目に他のものが入ると、きっと僕は壊してしまうから。約束だよ?」
「はい。ジャックさまもわたくし以外の人に触れないでくださいませね」
「勿論だ」
自然と重なる唇。何度も角度をかえて、約束のくちづけを繰り返す。
――ファーストキスは、脳が麻痺するような甘い味がした。