【改稿版】明日はキミのために泣きたくない。

 数年前のあの日、すごく暑かった。
 俺は高校生で千紘は小学生。俺らは、お隣同士に住んでいる幼なじみで……小さい頃は何処でも一緒にいた仲良しだった。
 けど、高校生ともなると違う。恥ずかしさとそれに加えた反抗期も重なって彼女を突き放したりしていた。
『あーくん!いらっしゃい!!』
 夏休みに入って、両親が海外に言っている俺は、部活の午後練がない日はずっと千紘の家でご飯を食べていた。いつも笑って迎えてくれる彼女が、本当は可愛くて仕方なかった。
『なんか、アイスとか食べたくね?』
 暑くて、俺はそう言った。すると千紘は賛同して手を上げて大きな声で言った。
『アイス!? 食べたい!! あるの?』
 無性に食べたくなって、ある提案を俺がした。
『ジャンケン3回やって負けたらスーパーに買いに行くゲームしよーぜ!』
 この言葉のせいで、千紘はあんな事故に遭った。


『傷痕は消えないのよっ……あの子はずっと傷痕と一緒に生きていかなきゃいけない……もう長袖しか着れない……なんて、』
 いつも温厚な千紘のお母さんが声を荒げそう叫んでいて、俺は謝ることしか出来なかった。
 千紘のお父さんは声を荒げることはなかったが、悲しそうな顔をしていた。
 小さい頃から共働きの両親の代わりに温かいご飯を作ってくれて温かく迎えてくれた彼らを裏切るようなことをしてしまった。そしていつも『あーくん! 大好きだよ!!』と笑顔で付いてきた千紘に――消えることのない傷痕を残してしまった。
 だから俺は決意したように二人に言った。
『……俺が責任をとります。』
『責任?』
『はい……俺が千紘を守ります。幸せにします。千紘のために生きていきます』
 まだまだ高校生。ガキだった俺。どうすればいいか分からなかった俺……。
 そんなガキなりの精一杯の言葉だった。
 それから俺は、大好きだった部活を辞めた。

 だけど、俺はレギュラーに選ばれてもうすぐ練習試合を控えていたから悩んだ。悩んで、悩んで……だが、これも千紘のそばにいるためだと言い聞かせた俺は、顧問に退部届を提出した。
 チームメイトには理由を聞かれたが、答えなかった。いや、答えられなかった。
『何か悩んでいることがあるのか? だったら……』
『悩みはありません。俺、進学します』
 就職希望を進学希望にした。千紘がいない時はずっと勉強に当てて俺は“ガリ勉”と化していた。
 推薦で大学が決まったら、就職組と同じタイミングで教習所に通って免許を取りに行った。ただ、彼女を車に乗せたくて……それだけの思いで。
 一方で千紘は、学年が上がるにつれ可愛くなっていった。可愛い彼女が男子がほっとかない。
 まだ俺に彼女への気持ちが分からなかった……ただの可愛い妹としてなのか恋愛感情なのか。自分でも分からない状態だった。
 
『桜林さん、一緒に帰ろう?』
『うん、いいよ。』
 千紘は無自覚だけとモテる。いつものことなのに、彼女に触る男子にムカついて仕方なかった。だから『千紘、迎えにきたよ』だなんて、言っていた。
 この時から俺は……彼女に恋をしていた。好きなんだ……と感じていた。千紘だけは離したくない。もし、千紘に好きなやつがいても……渡したくない。
 それは今も同じことだ。何度振られても、絶対にあきらめない。
 千紘を諦めることはできない。あの日、千紘に言った言葉に嘘はないよ。

『……千紘、好きだよ……幸せにする、だから俺と付き合ってください。』
 気持ちを伝えられるなら、チャンスが欲しい。
 今度はちゃんと愛を言葉で伝える。そして彼女に言うんだ……。
「――俺と、結婚してください」って。







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