【改稿版】明日はキミのために泣きたくない。
◇◇◇
(亜樹side)
今日は、千紘と付き合って2年記念日。
数ヶ月前から、デートとか計画していたが千紘は一コマだけで俺も本当は昼までだったのに、教授の変更で夕方までの講義になりデートはできなかった。
「亜樹くん! 今日はバイトも何にもないんでしょ〜私たちとご飯でも行こうよ」
「行かないよ、俺彼女いるの知ってるよね?」
俺は早く帰りたいんだよ。こんなところで捕まってる場合じゃ、ないんだよ。
「え〜! 別にそんなのいいじゃん〜今彼女いないんだし、バレないって」
そういう問題じゃねーし。というか、浮気なんてしたくないし出来ない。
もし何かあれば、千紘は元カレの方に行ってしまいそうで怖い……。
千紘は、まだあの人が好きだと思う。ただ、気持ちを封印して俺を“好き”だと思うようにしているんだ。
「うるさいな……俺はっ、千紘が好きだからそういう浮気なんてしたくないんだよ」
「……亜樹、今注目の的だけど」
え、みんな見てる? これ、千紘にも怒られちゃうパターンだよね!? 千紘はこういう目立ったこと嫌いだから……
「はいはーい! 亜樹くんは、今から愛しの彼女に会いに行くので〜退散退散」
しっしっとみんなを何処かにいかせたのは、同じゼミの長谷川 真麻(はせがわ まお)。そのおかげで誰もいなくなり、残ったのはその長谷川とまあまあ友人と呼べる木野 湊(きの みなと)。
「まあ、大胆宣言だったね。あんな公衆前で……」
「それは……もう。今日は帰るから」
「あ〜記念日だっけ? お泊まりデートだろ」
もう帰りたい。早く千紘に会いたいんだけど。
「じゃあ、帰るわ」
その後は二人に見送られ、マンションに帰った。鍵を開け「ただいま〜」と言ったが返事はなくて、部屋の中に入ると床で寝てしまっている彼女の姿があった。
「……千紘? 風邪ひくよ」
「ん〜……っ」
起きる様子も見られないから起こさないようにベットに運んだ。それから三十分くらい過ぎて、起きた彼女……キスをすれば千紘は顔を真っ赤にする。
この子は本当に可愛い。だけど、キスから先はさせてくれない。やっぱりあの元カレのことが忘れられないから罪悪感があるのか……それとも違う理由があるのか。
「亜樹に、聞いて欲しいことがあるの……」
「千紘!?」
そう言った彼女は自ら、来ていたブラウスのボタンを外して服を脱いだ。
「これが私がずっと拒んできた……理由です」
千紘は続けて「こんなの気持ち悪いよね、ごめんね」と言い、悲しい顔をして笑った。
「そんなことは……」
彼女の腕には、火傷の痕。だから高校の時もずっと長袖だったのか……。
「あのさ……小学生の頃くらいにあった、高校近くのスーパーで起きた爆発事故って知ってる?」
それは、覚えてる……テレビで見たし、まだ引っ越してない時だったからあの辺りに住んでなかったけど全国ニュースでやっていたから母さんと一緒に「怖いわね〜」なんて話した記憶がある。
だけどそれと何の関係があるのだろうか……?
「私は、その爆発事故現場にいたの」
「え……?」
「……アイスを買いに家から近いから1人で行ったの、それで爆発事故になった。それで今でもトラウマがあって、高校の時閉じ込められたことあったでしょ?」
あぁ、確かあの時は……朝陽さんが助けに行って過呼吸を起こしたって……。
「実は暗くて少しだけ光が差し込む場所がダメで、スーパーの精肉コーナーが苦手……それに、あの事故で私はずっと朝陽を縛ってた」
「縛って……?」
「うん、あのスーパーにアイスを買いに行ったのはね……朝陽に頼まれたからで、事故の後に私の両親に言ったの『責任を取ります』って」
「じゃあ……何で別れたの?」
俺と付き合っているのにそんなこと聞くのは変だけど……何故か聞かなきゃと思った。
「朝陽は、私のこと……ずっと好きじゃなかった。ただ責任と義務感で付き合っていたの。彼は私のために部活を辞めて、高校卒業したら私のために免許を取って、私を守れるように……大学時代内定をもらっていた会社全部蹴って消防士になった。全部私のため……私がいなかったら、もっと違う人生だった」
好きじゃない、って……そんなことないと思った。初めて会った日も、閉じ込められていた時もあの人は責任と義務感では千紘を見ていなかった。その反対に、愛おしそうに見ていたんだから。
それに、責任だけじゃ千紘のためにそんだけのこと出来ないよ。もしかしてすれ違いだったんじゃないかな、と思うけど。
「……そうなんだ」
でも、千紘は今は俺の彼女だ。それは変えられない。
離したくないから。
「ごめんね、こんな話して……」
俺は、朝陽さんにはなれないけど俺にとって大切な彼女には変わらない。
「今日は寝よっか」
「え〜まだ晩ご飯食べてないし、外明るいんだけど!」
俺は、すれ違うことはしたくない。だから伝え続けるよ。
「千紘が好きだよ」って─︎─︎……。