英雄となった騎士は置き去りの令嬢に愛を乞う
「とうとう、ヴィクターが帰って来るのね」
シャーロットはため息をつくと暁に染まる山々を見た。一筋の黄金の光を見ると、どうしても彼を思い出してしまう。橙色の髪をした——、初恋の騎士。
幼い頃から傍にいたヴィクターを忘れられなかった。だが彼が辺境にある山間の街ケンドリッチを出てから五年も経っている。
『どうしても、手に入れたいものがある』
そう言ってヴィクターはケンドリッチを離れた。
シャーロットは、別れ際に彼の言った『手に入れたいもの』が何かを知らない。ぽつりと零された言葉の意味を、問いただすには幼すぎて——、それがケンドリッチにないことが怖くて聞くことができなかった。
ヴィクターは敵国の将を打ち取った英雄となり、戦勝パレードのために帰って来る。それも皇帝の娘である皇女を連れて。
——危険を冒してまで手に入れた、英雄の婚約者を連れて。
ケンドリッチ領ウォルトン伯爵の娘、シャーロットは馬上にいる暁の騎士を見つめていた。
シャーロットは青銀の髪を隠すためにベールをまとい、街道に溢れる群衆の中に紛れ込んでいる。帝国では珍しく燃えるような緋色の瞳をした彼女は、髪と同じ色の長いまつげを瞬かせ、騎士から目を離せないでいた。
日の光を受け、紅の旗が輝きながら風になびいている。
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