英雄となった騎士は置き去りの令嬢に愛を乞う
 シャーロットが戸惑っている間にヴィクターは窓のカーテンを閉め、扉の鍵をかける。すると部屋の中は淡い光に包まれどことなく落ち着かなくなる。

「ヴィクター、どうしてカーテンを閉めたの?」
「初めては薄暗い方が安心すると聞きました」
「初めてって?」
「はやくお嬢さまを俺のものにしたいのですが、よろしいですか?」
「えっ」

 さっきから驚いてばかりだ。ヴィクターに再会できたことも、プロポーズされたことにも頭が追い付かないのに、気がついたら神殿で結婚の誓いをして宣誓書にサインをした。

「ヴィクター、でも、あなたは皇女マリア様と婚約していると聞いたわ」
「それはっ」

 マリアの名前を出した途端、ヴィクターは顔を歪めた。

「……マリア様が褒賞として下賜されると聞いたわ」
「な! 違います!」
「陛下から賜ったことを、辞退なんてできないわよね」
「では、この結婚を早く確実なものにしましょう。そうすれば、誰も反対はできません」
「そ、そうなの?」
「はい、ですからお嬢さま、いいですね」

 シャーロットは迷って瞳を潤わせるが、ヴィクターの瞳は揺るがない。彼を信じてこのまま身を任せることを決意したシャーロットは、こくんと頷いた。

 普段は武器を握るだけの無骨な手が、そっと肌を撫でるとシャーロットはびくりと身体を震えさせた。

「シャーロット」
「は、はい」
「幸せにします」

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