英雄となった騎士は置き去りの令嬢に愛を乞う
 真っ白な騎士服の胸に多くの勲章をつけ、豪奢な深紅のマントがパタパタとはためいた。英雄と呼ばれるヴィクター・クスフェアを先頭に、帝国軍は戦勝パレードを彼の郷里であるケンドリッチで開催した。

 ヴィクターの強さは他の者を凌駕していた。彼はあらゆる騎士をなぎ倒し、長期にわたる隣国と続いた戦争に終止符を打っていた。

 橙色をした彼の髪は、戦闘のときは燃えるように紅くなるという。怜悧で切れ長の目は黒く、すっと通った鼻筋に薄く引き締まった唇の美丈夫である彼は、容姿だけで人の心に火を灯すと言われるほど美しい。

 彼の隣には、白馬に跨って群衆に手を振る女性がいた。——皇女マリア。深紅の乗馬服を着た彼女は、輝く金髪をうねらせている。

 帝都に通じる街道には大勢の人が押し寄せ、英雄の姿を一目でも見ようとしている。小さな子は肩に担がれ、背の低い者は箱に乗り首を伸ばす。人々はそれぞれ帝国軍を象徴する紅の旗を振って歓迎した。

「すごいね、かぁちゃん。英雄様はあの孤児院の出身なんだろ?」
「そうだよ、今やケンドリッチの誇りだ」

 ここケンドリッチで今や彼を知らない者はいない。孤児から英雄となっただけではなく——彼には爵位が与えられ皇帝から皇女マリアが下賜されると専らの噂であった。

「本当に、孤児が貴族になるのも凄いのに、あんなに美しい皇女マリア様まで娶ることになるなんてなぁ」
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