英雄となった騎士は置き去りの令嬢に愛を乞う
「ヴィクター様は、この国の英雄だからな」
だが人々が口にする『英雄ヴィクター』が、郷里にいた時の姿を知るものは少ない。背は高いがひょろりとした無口の青年は、領主であるウォルトン伯爵に雇われた一人であった。
——それも、末娘のシャーロット付きの護衛であった。
*****
——八年前。
「ヴィクター、本当に行ってしまうの?」
「お嬢さま」
「どうして? どうして行ってしまうの?」
「……どうしても、手に入れたいものができました」
ヴィクターは顔を強張らせると、口をくっと閉じた。
「ダメよ! あなたを孤児院から連れ出したのは私なのよ!」
「はい」
「だったら、私の傍にずっといてよ!」
幼い頃に訪問した孤児院で、十二歳も年上の橙色の髪をしたヴィクターを欲しいと願ったのはシャーロットだった。それ以来、彼はウォルトン伯爵家に仕えている。下男から始まり、剣の腕を認められた今は護衛に昇格した。
背が高く痩せているが筋肉のつきそうな身体に、抜群の運動神経を併せ持つ。たまたま辺境に立ち寄った騎士が見かけると、才能を生かすようにと騎士団へ推薦した。
「……だから、です」
「そう、そうよね。ここにいたら、いつまでもただの護衛だから? ヴィクターはそんなにも騎士になりたかったの?」
「お嬢さま」
シャーロットは零れ落ちる涙を手で拭うと、ヴィクターから顔を背けた。
だが人々が口にする『英雄ヴィクター』が、郷里にいた時の姿を知るものは少ない。背は高いがひょろりとした無口の青年は、領主であるウォルトン伯爵に雇われた一人であった。
——それも、末娘のシャーロット付きの護衛であった。
*****
——八年前。
「ヴィクター、本当に行ってしまうの?」
「お嬢さま」
「どうして? どうして行ってしまうの?」
「……どうしても、手に入れたいものができました」
ヴィクターは顔を強張らせると、口をくっと閉じた。
「ダメよ! あなたを孤児院から連れ出したのは私なのよ!」
「はい」
「だったら、私の傍にずっといてよ!」
幼い頃に訪問した孤児院で、十二歳も年上の橙色の髪をしたヴィクターを欲しいと願ったのはシャーロットだった。それ以来、彼はウォルトン伯爵家に仕えている。下男から始まり、剣の腕を認められた今は護衛に昇格した。
背が高く痩せているが筋肉のつきそうな身体に、抜群の運動神経を併せ持つ。たまたま辺境に立ち寄った騎士が見かけると、才能を生かすようにと騎士団へ推薦した。
「……だから、です」
「そう、そうよね。ここにいたら、いつまでもただの護衛だから? ヴィクターはそんなにも騎士になりたかったの?」
「お嬢さま」
シャーロットは零れ落ちる涙を手で拭うと、ヴィクターから顔を背けた。