英雄となった騎士は置き去りの令嬢に愛を乞う
「俺は必ず生きて帰ってきます」

 突然、シャーロットを後ろから包み込むようにヴィクターが抱きしめた。これまで、ヴィクターから触れてくることはなかった為、驚きのあまりシャーロットは息を止めた。

「っ、……」
「しばらく、このままで」
「ヴィクター……」

 十三歳になったばかりのシャーロットに、それ以上聞くことはできなかった。しばらくすると、背中に感じていた男の温もりが離れていく。

「ヴィクター、無事に戻って、お願い」
「……では、行きます」

 二人が別れる最後の言葉となった。靴音を鳴らしながら離れていくヴィクターを、シャーロットは追いかけることができなかった。


 *****


(ヴィクター、あんなに立派になって帰ってくるなんて)

 シャーロットは街道からいつまでも彼を見ていた。護衛も女官も傍にいるが、今日は市井に紛れるように姿を変えている。ただでさえ、シャーロットの美しさは目を引くものがある。青銀の髪に緋色の瞳の娘といえば、ウォルトン伯爵令嬢だとすぐにわかってしまう。

 伯爵令嬢とわかると誘拐される危険があるため、シャーロットは平民の服を着ていた。

「お嬢さま、そろそろ時間です」
「そうね」

 最後にもう一度、彼の姿をこの瞳に焼き付けたい――、そう思った瞬間、黒曜石のように黒光りする双眸と緋色の瞳が交差する。

 目があったのは、一瞬のことだった。

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