英雄となった騎士は置き去りの令嬢に愛を乞う
 妻問いというけれど、彼は既に皇女マリアと婚約しているのではないか。不信感が顔にでてしまうと、ヴィクターはシャーロットの細い腰に回していた手をぐっと引き寄せた。

「お嬢さま、俺が妻にしたい女性はあなただけです」
「でも、あなたには」

 あなたには皇女マリアがいるのに。口にでかかるけれど、言葉にするには躊躇われた。肯定されたら、悲しくなってしまう。

「俺は、あなたに妻問いする立場を得るために、騎士として名をあげました。ようやく、伯爵の許しもいただくことができました」
「本当に? 本当に私と結婚するために?」
「そうです」

 真面目な顔をしてヴィクターは頷くと、真摯な態度を変えることなくまっすぐにシャーロットを見つめている。

「欲しいものがあるって、言っていたわ」
「それは、お嬢さまです」
「っ、私なの?」
「はい」

 ようやくヴィクターの想いを聞き、嬉しいとばかりにシャーロットは背中に回していた腕にギュッと力を込めた。すると、ヴィクターはシャーロットの両肩に手を置いて、優しく身体を引き離した。

「お嬢さま」

 身体が離れた途端、片膝をついてシャーロットを見上げる姿勢をとり、左手を己の心臓の位置にあてた。手袋をとった右手をシャーロットに向けて伸ばすと、細く白い手をとった。

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