処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。
「う、売ってない!」

情報など売っていない。だって記憶が無いのだから。
しかし、それを伝えて良いものか悩む。
記憶がないと分かった途端に殺されそうだ。
なんとなく正体がわかってくる。この男は、リアが情報を売っていたという、デリクリエンツの人ではないだろうか。

「ふん」

ギラついた瞳ににらまれて、目が泳ぐ。
これは不味いのでは。
逃げる案件なのでは。
暴れて逃げるべきなのに、噎せ返るような甘い匂いに酔わされて、頭が上手く働かない。
この匂いは、いったい何なのだろう。


「数ヶ月も音沙汰無しで何をしていた」

「えっ……えー……っか、監禁! そう。地下牢にいたので連絡できなかったの!」

まるっきり嘘ではないぞ。

「監禁ねぇ。処刑を逃れてか? いつ自由になった。カウルの見張りはあったようだが、ずいぶんと自由に行動出来ているように見えたな」

この人、カウルを知っている。

「っそ、そう?」

「俺に連絡する隙もなかったか?」

「え、ええ、全然……!」

「どうも様子がおかしいな」

わたしは誤魔化し笑いをしながら、どうやって逃げようか必死に考えていた。

「今日は一日中国境付近をウロウロしやがって。連中は、何を探っていやがった」

「はい?! いや、とんでもないっ……」

探る?!
探していたのは稲ですー!

「吐け。ノーティー・ワンの連中は、デリクリエンツの領地に何をしようとしていた。散々温情を見せてやっていたというのに、磔にされたいか」

やっぱりデリクリエンツの人だ!
それに、は、はりつけ?! それってバイクにぐるぐる巻きにされるあれ?!

この世界で目覚めたときの恐怖を思いだしておののいた時、繁みの向こうから声が聞こえた。
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