処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。
「ーーっっ! どこだ! ゆづか!!」

救いの神!

「カウル!」

わたしは助かったと安堵して、うっかり返事をしてしまう。

「おい、ユズカ」

男に低い声で呼ばれ震え上がる。

「っは、はいっ」

「ほぅ、お前の名前はユヅカというのか。リアだと思っていたが、間違えたか」

「は、え?」

しまった!
普通に返事をしてしまった。

「いや、あの、それは……」

否定しようとしたら、カウルはテントのあった場所から一足飛びに自分と男の元へと来た。
手を光らせ剣を取り出すと、一振りで繁みを切り裂いた。

同時に、男は後ろに飛び退く。

「きゃあ!」

羽交い締めにする腕は緩まず、わたしも一緒に引っ張られた。


「ゆづかっ!! ――っお前はっ……デリクリエンツのクランク!!」

カウルがわたしの後ろの男を見て、表情を凍らせる。


「よぉカウル。無能の総長が。まだトップで偉そうにしているのか」

二人は顔見知りのようだった。


「クランク! ーーっ何しに来た! ゆづかを離せ」

「何しに来た? そりゃあこっちのセリフだ。国境付近で変な動きをしやがって」

「食料を探していただけだ! 俺達はデリクリエンツの領地には入っていない。領地を犯しているのはお前だろう!」

「はっ。食料? 白々しい嘘をつきやがって。こんな森の奥にどんな食料があるって言うんだ」

「それはお前に言う必要のないことだ」

「新種のきのこでも捜してるのか。なんたって、ノーティー・ワンの作物は、リアがみーんな枯らしちまったからな。食糧難で国民は可哀想になぁ」

リアはきっと、デリクリエンツの指示で畑に海水をばら撒いたに違いない。
どっちが白々しいんだか!
バカにされて、唇を噛む。

「お前にに心配されるようなことはない。そして、デリクリエンツの領地にも興味は無い。ゆづかを置いて今すぐ立ち去れ」

カウルが剣先をクランクに向けて構えた。
自分を狙っている訳ではないのに、その殺気にぞくっとする。
クランクは物ともせず、目を細めてニヤついた。
< 107 / 120 >

この作品をシェア

pagetop