処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。
「ゆづかを離せ! 早く!」

「ゆづか、ねぇ。俺はリアに声をかけたと思ったんだけどなぁ」

カウルは、名前を呼び間違えていたことにやっと気がついたらしく、ピクリと片眉を動かした。

「人違いだ。リアは死んだ」

「ほう。やっぱり噂通り処刑したのか。婚約者を処刑するなど、よくやる。カウルは一人の女より、お国が大事だったんだなぁ」

高笑いをされて、カウルは奥歯をぎりっと噛んだ。


「じゃあ、このそっくりな女は何者なんだろうなぁ」

腰に回っていた腕がお腹を締め付けた。うっと呻きが洩れる。


「それも、お前には関係の無い話だ。即刻彼女を離し、ここから立ち去れ! 不法入国で攻撃されても文句はいえんぞ!」

カウルが叫んだと同時に、カウルの背後からみんなの声が聞こえた。

「ゆづか!」

「姫さん!」

茂みから飛びだしてきたカムが、手を光らせ長い槍を出す。
紫の三つ編みが靡いた。

ひゃー格好いい。
予想外の格好良さに目を離せない。

正直、ひょろっとしたカムは警備隊として強いのかと疑問に思っていたが、とんでもない迫力だ。
みんな起きたらしく、勢揃いをした。
クランクをに向かってそれぞれの武器を構えた。
よかった。みんなが来てくれた。
これで助かると、少しだけ安堵する。
多勢に無勢。この状態で、ノーティ・ワンが負けるわけない。

「総長」

カムがクランクを見据えたままボソッと呟き、カウルが無言で頷いた。
足元がざりっと鳴る。
重心を低く、大きく踏み込んだ靴が土にめり込んだ。今にも地面を蹴ろうとしている。
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