処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。
「おい、また食い物漁ってるのか。食い意地のはった女だな」

四つん這いになってツルムラサキを採取していると、後ろから声がかけられた。
振り向くとクランクがいた。仕事から戻ったらしい。

「変われ」

ライザーに向けて顎で指示をすると、ライザーは頭を下げてすぐにさがった。見張り交代だ。腰縄の先をクランクに持たれ、犬のような気持ちになった。

「食糧調達に貢献してるの! わたしだけが大食らいみたいな言い方しないでよ」

ムキになって反論すると、クランクは喉の奥で笑った。

「事実、大食らいだろ」
「美味しいものは大好きだけど、大食いなわけじゃないもん」
「同じ様な草をそんなにとってどうするんだ」

すでにツルムラサキは籠いっぱいになっていた。今は二つ目の籠に突入している。
満タンになった籠を、先に厨房へと運んでくれているライザーの背中を見送りながら、クランクはぼやいた。

「衣をつけて、油であげるの。天ぷらにするんだ! たくさん作るぞ~」

「てんぷら? なんだそれは」

先ほどライザーにした説明をもう一度する。
食べたときのサクサクッジュワーッを身振り手振りをつけ再現すると、クランクは呆れた顔をしていた。

「……以前のリアの面影が皆無だ。残念でたまらない」

国民に嫌われていない分、以外にもこの国に早くに馴染めた気がする。
今のところ命は危なく無さそうだが、代わりにリアとしての尊厳を失っている気がした。
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