処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。
「す、すっげええええ。どうなってんだ?! 総長、なんだよこれ!」

プーリーが興奮して目を輝かせている。
料理長である彼が居れば、なにか解るかもと連れてきたが、この感じでは何も分からなそうだ。

このトマトだけではない。
トマト、キュウリ、ネギ、イチゴが、規格外の大きさに育っていた。キュウリは腕ほど、イチゴは人の顔ほどある。
とてつもない大きさに成長し、畑にごろんごろんと転がっている。

「昨日までは普通だったのに、さっき来たら、こうなってたんだぜ?」

ラジが首を傾げる。

「ネギも、ゆづかが居なくなる少し前に植えたもんなんで、収穫にはまだまだ先の筈なんすよ。かなりのスピードで成長したみたいで」

トマトを渡してきた男、サスも無精髭を撫でて頭を捻った。

「隣の畑は、普通だな……」

不思議なのは、実が巨大化した畑の区画が、限定されていることだった。普通に育っている畑と、巨大化したした畑が隣り合っている。

ネギの畑に降りて、自分の身長ほどに伸びたネギを恐々と抜いた。でかすぎて薙刀のようだ。わけがわからない。

「総長、なんか格好いいっすね。戦えそうだ」

サスが冷やかす。

「ネギで格好がつくか」

「俺、イチゴをたらふく食べるの夢だったんすよね。こんなに高級な果物が、こんなにたくさん収穫できるなんて……ちょっと食べちゃ駄目っすか?」

サスはイチゴを抱えて頬ずりした。

「まて、デリクリエンツの罠かもしれないし、突然、こんなに巨大化した物を口にするのは危険だ」

「でも、あいつら食べちゃってますよ?」

「ーーはぁ? こらあ!」

ラジが即座に反応して、となりの畑に走った。

「なに勝手に食ってんだ! 何かあったらどうする!」

トマトにむしゃぶりついていた男三人を、首根っこを掴み剥がした。

「えー大丈夫っすよー。めちゃくちゃ美味いっす!」
「ちょうど喉渇いちゃって」

三人はのんきに笑った。
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