処刑直前の姫に転生したみたいですが、料理家だったのでスローライフしながら国民の胃袋を掴んでいこうと思います。
カウルside
「ゆづか?」
話している途中で、規則正しい吐息がきこえた。名前を呼んだが当然返事はない。
「ーーーー寝たのか」
安堵し、カウルは深く息を吐いた。
二週間様子を見ていたわけだが、ゆづかは本当に記憶がないらしく城内の部屋の場所、道具の使い方、生活の仕方など、全てがたどたどしかった。
聞けば、違う世界から来たと言う。慣れない生活で、ゆづかは少し疲れた顔をしていた。
フェンはどうやっても信じようとしないが、この全てが演技などと思えない。
しかしまさか、フェンが実力行使にでるなんて。本当に間に合ってよかった。他にも同じような考えを持った人間は何人も居るだろう。
(ーーーー守らなくては)
繋いでいた手を離すと、顔にかかっていた美しい金髪をさらりと背中へ流してやる。
長い睫毛がぴくぴくと動いていた。夢でも見ているのか。
成長してからは、こんな風にじっくりと寝顔を見ることなんてなかった。
リアが幼かった頃は遊び相手になり、そのまま寝かしつけを任されたり、一緒に過ごすことも多かったのに。
いつからかリアは俺を避け、誰に対してもトゲトゲしかった。
ゆづかは、違う。
嘘のない優しさが魂から滲み出て、以前より輝いて見えた。
「話している途中で寝るとはひどいな」
早く寝ろと言ったのは自分だが、けっこう大事な話をしていたぞ。
(ーーーーそれに、俺はお前が気になるし……)
まぁ、そんなこと言えるわけないか。
指で頬をそっと撫でると、「んんん」と体を丸めて抵抗した。
昔の愛おしさが蘇ると同時に、なんとも言えない感情が湧き出る。
誰にもとられたくなくて、そっと腕の中に入れると、彼女の柔らかさを感じながらカウルも眠りについた。