私を見て、私を愛して
二宮ゆか子は3歳の息子をもつ34歳の主婦だ。平日は、輸入雑貨を取り扱う会社で事務の仕事をしている。

女性が働きやすい会社で、産休や育休が取得しやすく、時短勤務を行う社員も多い。

ゆか子も出産後は16時までの時短勤務で働いている。

出産前は柔らかく艶のあるショコラベージュだった髪は、出産以降染められたことはなく真っ黒で、下ろすと鎖骨のあたりまである髪を後ろでひとつに結んでおり、彼女を真面目でおとなしく見せる。

いまではうっすらとしか化粧をしていない顔も彼女を真面目でおとなしく見せる一因だろう。

ゆか子は立ち上がると、息子の友也が眠っている部屋に向かった。

部屋に入り、友也の顔を静かに眺める。

友也はすやすやと寝息をたてて眠っている。

体に掛かったブランケットが窮屈なのか、友也はもがくようにブランケットを蹴り飛ばそうとしている。

起きている時は部屋を荒らし、小さな怪獣のように感じる息子だが、その寝顔はまだあどけなく、世界で一番かわいい。

友也を妊娠中、同僚の先輩ママが言っていた。

子どもは起きている時は悪魔で、眠っている時は天使だ、と。あの頃はわからなかった意味が今ならよくわかる。


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