私を見て、私を愛して
ゆか子が携帯に飛びつく。

画面を見ると、洋樹からのメッセージが表示されていた。

【残業。遅くなる。】

(……なんだ……そっか、そういうことだよね……)

メッセージを見た途端、身体中の筋肉が一斉に緩むのを感じた。

知らないうちに身体に力が入っていたらしい。

安心すると同時に、もう一つの感情が浮かび上がってきた。

それはゆか子の心を仄暗く支配した。

(残業になったのは仕方がない。それで帰宅が遅くなるのも仕方がないことよ。)

仕方がないとわかっているが、もう少し早く連絡できなかったのだろうか。

ゆか子はもう少し早く連絡がほしかった。

メッセージを送るという時間にして1分にも満たない。その行動すらできないのだろうか。

メッセージをさらに簡潔にすれば、1分と言わなくても30秒あればメッセージは送れるだろう。

その30秒ですら確保できないほど忙しい日なんて、そこまで多くない。

ゆか子だって連絡が遅いことが今日に限ったことであるなら、こんなふうには思わないだろう。

(残業の日はいつだって連絡が遅い。)
< 68 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop