この政略結婚に、甘い蜜を〜溶けるような夜を共に〜
華恋は勇気を振り絞って話しかけてみるものの、零は窓の外など一度も見ずに俯いている。

(私が、あんな事件に巻き込まれたから怒っているの?)

零に嫌われてしまったら、そう脳裏に浮かんでしまう。華恋は震え始めた手で零の手を掴んだ。

「零さん、ご飯食べに行きませんか?ここのビュッフェすごくおいしいって妹が教えてくれてーーー」

「そうだね。行こうか」

零とようやく目が合った。だが、零の表情はどこか暗く、旅行を楽しんでいる雰囲気ではない。華恋の表情も暗くなってしまう。

「……私が、あんな事件に巻き込まれてしまったからですよね、すみません」

「あれは、別に華恋は悪くないよ。あの二人が勝手に……」

「じゃあ、どうしてそんなにも辛そうな顔をされてるんですか?」

華恋の言葉に零は黙り込む。部屋には重い沈黙が訪れた。華恋は今にも泣いてしまいそうなのを、ただ必死で堪える。

結婚してから二人きりで何度か出かけることはあったものの、お互い時間が取れずに旅行には新婚旅行しか行ったことがなかった。そのため、零から誘われた時には舞い上がってしまいそうなほど華恋は嬉しかったのだ。
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