この政略結婚に、甘い蜜を〜溶けるような夜を共に〜
新婚旅行の際、華恋はまだ零のことを好きではなかった。愛のない政略結婚だと信じて疑わなかった。零から過去のことを聞き、アプローチを受けていたものの、「好き」という感情はなく、夫婦の新婚旅行とは思えなかった。

(新婚旅行のやり直しだと、ずっと思ってた。この日のために、下着だって新調して……)

初日からこんなにも重い空気になる新婚旅行など、存在しないだろう。華恋はしばらく一人になろうと思い、ホテルの部屋を出ようとした。

「待って」

華恋の手がドアノブに触れた刹那、零に背後から抱き締められる。零の吐息が耳に当たり、消えてしまいそうな声で零は「行かないで」と呟く。まるで、母親を引き止める子どものように感じた。

「ごめん、傷付けてごめん。楽しい旅行なのに、僕が台無しにしちゃ意味ないよね。……あの二人に襲われそうになっている華恋を見た時、殺意に似たような感情を抱いてしまったんだ。華恋は僕の妻で、触れていいのは僕だけなんだから……」
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