お嬢様は完璧執事と恋したい
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澪の住むマンションの四十六階の半分は、邑井家の人々が共通で使うフロアになっている。個人の自宅には不要と思われる広いシアタールームと半屋外のガーデニングスペースもあるが、澪が使用するのは主にリビングとダイニングルームだ。
そこに家族全員が集まるのは朝食のときだけで、昼食は母のみ、夕食は澪と母の二人きり。あとはほとんど使われていないフロアだが、普段は邑井家に仕える執事やメイドが待機する場所となっている。
「澪お嬢様」
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「ただいま」
その四十六階に足を踏み入れると、メイドの沢城と桜庭が澪を出迎えてくれた。
「早かったですね?」
「うん、もう疲れちゃった。お湯沸かしてくれる? お風呂に入りたいの」
「かしこまりました。すぐに準備いたしますね」
声をかけると澪の世話担当である沢城がすぐにお湯の準備へ向かってくれる。残った桜庭が冷たいお茶を用意してくれたのでそれを飲みながらぼーっと酔いを醒ましていると、帰宅の報せを聞いた朝人がリビングへやってきた。
「……朝人さん」
「もう戻られたのですね」
「うん」