お嬢様は完璧執事と恋したい
入り口に視線を向けると、朝人が困ったような表情をしている。だが退屈なパーティを途中離脱してきたことを告げても彼は澪を諫めることはせず、「そうですか、お疲れ様でした」と呟くだけだ。
「朝人さん。私やっぱり、結婚は好きな人としたいな。お父様の道具になるのは嫌よ。好きな人がいるのに、他の人と結婚なんてできないもん」
澪の訴えを聞いても、朝人はやはり何も言わない。肯定も否定もぜず、じ、と澪の姿を見つめる。その瞳には澪が知らない深い感情が宿っているような気がするし、澪のわがままに付き合わされて呆れているようにも見える。
けれど本当は気付いているはずだ。
澪の気持ちに。澪の恋心に。
「朝人さん、なんで『好きな人って誰?』って聞いてくれないの?」
大理石のテーブルにグラスを置くと、身を預けていたソファから立ち上がる。そして澪の挙動を見つめていた朝人の前までつかつかと歩み寄り、執事の制服である黒いスーツの裾をくいっと掴んで朝人をじっと見つめる。