お嬢様は完璧執事と恋したい

 上目遣い、なんて可愛いものじゃない。睨んでいる、の方が表現としては正しいと思う。

 それでも言わずにはいられない。可愛いドレスを身に纏い、綺麗にセットした髪に煌めく髪飾りをつけ、しっかりとメイクをした完璧な『社長令嬢』を演じていても、本当はただの恋する女の子だと知って欲しい。

「私の気持ち、知ってるでしょ? 私――」

 その瞬間、ピピッと小さな音が聞こえた。朝人が耳に装着しているイヤーモニターの通知音だ。

「お嬢様、ご入浴の準備が整ったようです」
「待って、はぐらかさないで」

 通信の相手は四十七階にいる沢城だろう。澪が所望した入浴の準備が整ったと連絡があったようだ。

 すかさず会話を切り上げようとした朝人を制止する。いつも『好き』『朝人さんと結婚する』と冗談めかして口にしているが、本当はいつも本気だ。冗談のつもりで言ったことは一度もなかった。

 だからそれが澪の望みであることを、朝人にもちゃんと知って欲しいのに。珍しく完全な二人きりになった今この瞬間に、澪の想いを聞いて欲しいのに。

「私、朝人さんのことが……っ」
「お嬢様」
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