お嬢様は完璧執事と恋したい
3話
「澪お嬢様、旦那様がお呼びです」
「……なんの用?」
「ええと、私は内容まではお伺いしていなくて……申し訳ありません」
パーティの夜から二週間ほど経過した土曜日の夕方、父から突然呼び出しを受けた。嫌な予感がした澪は大学の課題であるレポート作成の手を止め、つい低い声を出してしまう。
言伝を運んできた沢城にはなんの落ち度もないのに不機嫌な返答をしてしまったことを反省する。けれど彼女との付き合いもそれなりに長いので、悪気があって冷たい反応をしたわけではないことは伝わったようだ。
重いため息を吐きながら、父の書斎兼仕事部屋である四十九階へ移動する。
最上階の五十階は完全な父のプライベート空間のため、母ですら滅多に立ち入らない。別に仲が悪いわけでもないのに寝室どころか普段過ごすフロアでさえ完全に分けている両親だが、四十九階のリビングルームに足を踏み入れると、珍しくその母の姿もあった。
「お父様、失礼いたします」
直前まで談笑していた父と母が、澪の入室に気付くと話を止めてこちらに視線を向けてくる。
「そこにかけなさい」
「……はい」