お嬢様は完璧執事と恋したい
そのやり取りを聞きながら考える。この人たちはどうしてこんなところまで澪を連れて来たのだろう。
確かに澪が姿を消したことに気付き、かつ、まだ警察に捜索依頼をするほど時間が経過していないタイミングを考えると、三時間は丁度いい頃合いかもしれない。だがそれにしても、都心からこんなに離れた場所まで連れてくる必要はないはずだ。
彼らは何の目的で遠方まで澪を誘拐したのか。てっきりお金が目的だと思っていたのに、違うのだろうか。
「あれ、俺のスマホどこ行った?」
「何してるんだ、さっさとしろ!」
リーダーの男に怒鳴られ、大男が上着やズボンのポケットを確認するように自分の身体をポンポンと叩く。だがどんなに探しても彼のスマートフォンは見つからないだろう。
なぜならそれは転がされた澪の身体と冷たい床の間に挟まれている。しかも先ほどこっそり電源を落としたので、残りの二人が電話をしたところで音が鳴ることもない。
「おかしいな確か尻のポケットに……」
「私のでよければ貸しましょうか?」
「ああ、悪いな。助かる……」
男に声を掛けたのは澪ではない。澪は口をガムテープで塞がれている。残りの男性二人はそんな丁寧な言葉遣いはしないだろう。
暗闇から突然現れ、スマートフォンを貸そうかと提案したのはこの場にいるはずのない男性――邑井家に勤める執事、嶋山朝人だ。