お嬢様は完璧執事と恋したい
朝人の鮮やかな手際に拍手喝采したい澪だったが、彼に見惚れていると今度は澪自身に異変が起きた。
「んんっ! んむ、ぅっ……!」
突然強い力で身体を引っ張られたかと思うと、傍にいたリーダーの男に強制的に身体を起こされた。オラ、と乱雑に起立を促されたので、上手く力が入らない足を突っ張ってどうにか立ち上がる。
もちろん澪が相手の言うとおりにする必要はない。だがこの後どういう流れになったとしても、床に転がったままよりは起き上がっていた方が行動しやすいだろうと判断して、大人しく指示に従った。
「動くなよ」
ガムテープで口を塞がれた澪は、朝人と何か会話をしたわけではない。しかし突然乱入してきた朝人が仲間をあっという間に打ち負かしてしまったので、己の敵であると認識したようだ。
「おい、動くな! この女がどうなってもいいのか!?」
朝人が冷たい床をジリ、と踏むと、男が焦ったような声を出す。
懐からナイフを持ち出し、首の後ろから澪の目の前に腕を回して、それをちらつかせる。いつナイフの先が肌に触れてもおかしくないほど、空気がピンと張り詰める。