お嬢様は完璧執事と恋したい
けれど本当に行きたくない。年商二兆円にせまる〝邑井建設〟社長令嬢の澪が著名人が集う場所に足を踏み入れると、そこに待っているのは望んでもいない縁談のオンパレードだ。
相手はどこかの御曹司だの、有名病院の医者だの、国際資格を持つ弁護士だの、絵に描いたようなハイスペック男子ばかり。だがそんな極上の男たちをずらりと並べられたところで、澪の心は動かない。
それはそうだろう。澪には好きな人がいる。何年も前からずっと想い続ける相手がいるのだから、他の男性にときめくはずがない。しかもその相手は今まさに澪の逃亡を阻み、行きたくもないパーティの準備に引き戻してくる人物なのだから、目も当てられない。
澪は長年、自分の家に仕える執事の朝人に恋心を抱いていた。
辛いことがあると自然な形で寄り添い、嫌なことがあるとさり気なく愚痴を聞いてくれて、嬉しいことがあると少しだけ褒めてくれる彼に、同年代の男子にはない包容力と大人の余裕を感じていた。帰ればいつも家にいてくれる朝人を毎日少しずつ、けれど着実に好きになっていった
自分の恋心を自覚してからは日々それとなく気持ちを伝えているつもりだ。なのに彼はいつも澪のアプローチをあっさりと受け流す。
そして今日もいつもと同じ。パーティの場に赴いた澪が縁談を前提に他人へ紹介されることを知っているはずなのに、彼は理解していて準備しろというのだ。