お嬢様は完璧執事と恋したい
それほど衝撃を与えたつもりはないし、手ごたえというか、足ごたえもない。どうやら男は頭を打って気絶したらしい。だが段ボールがクッションになったので危険な状態にはなっていないだろう。多分。
温室育ちのお嬢様だと思ってなめていたのかもしれないが、澪はいざという時のために防犯や自衛の手段を身に着けている。
柔道の黒帯を有する朝人のように多種の技を綺麗に扱えるわけではないし、体格差のある相手を確実に倒せるわけでもない。けれど油断している相手から逃れたり、気を反らしたりするぐらいならば可能である。ちなみにそれを教えてくれたのも朝人だ。
澪の傍へ駆け寄ってきた朝人が、焦ったように顔を覗き込んでくる。口に貼りついたガムテープをビリッと剝がされた瞬間、澪は頬を膨らませて朝人に文句を言った。
「ちょっと、ぱんつ見たでしょ! 朝人さんのえっち!」
「あ、いえ。まったく」
太ももの長さのフレアスカートで思いきり足を振り上げれば、中に穿いてる下着が見えたかもしれない。そう思って朝人に文句を言ってみるが、彼は興味なさそうに表情を消すだけだ。
「ちょっとぐらい見てくれても……」
澪は唇を尖らせながら別の文句を言うが、それも華麗に受け流される。