お嬢様は完璧執事と恋したい
朝人に手首の拘束を外されながら周囲を確認すると、大男はその場に倒れて気絶していた。細身の男は朝人に後ろ手に腕を縛られたせいで上手く立ち上がれず、床に這いつくばってもがいている。唯一彼のみ意識があるが、あの様子では逃走もできないだろう。
「来てくれると思ってた」
「GPSが作動しましたから。少し距離を置いて後ろを走ってたんですが、まったく気付かれませんでしたね」
朝人の言葉に『そんなに早く気づいてくれたんだ』と感動する。
実は澪は、簡単なボディーチェックでは発見できないほど小さなGPSをベルトの内側に仕込んであった。縛られていた状態だったので上手く作動したのか自信はなかったが、どうやらちゃんと機能していたらしい。朝人に迷子防止だと言われていつも持たされているものだが、意外な形で役に立った。
「お金目的……なのかな?」
「その割にはお粗末ですね。計画性がなさすぎると思うんですが」
警察に通報して通話を切った朝人に尋ねると、呆れたように肩を竦められる。
「ああ、もしかしてこの麓のリゾート街に大型マンションを建設する件と関連しているんでしょうか?」
「え……そうなの?」
「会社経営にはついては詳しくは存じ上げませんが、地元の方と多少揉めていたようですから」