お嬢様は完璧執事と恋したい

「一緒のおふとん……」
「だめです。傍にいて差し上げますから、お嬢様は早く眠って下さい」
「じゃあ手つないで。……それもだめ?」

 だめです。と言いたかったのだろう。

 口を開きかけた朝人だったが、じっと見つめているうちに拒否も諦めたようだ。再度『仕方ないですね』と呟いたのを間違いなく耳にした澪は、布団をめくって中に入ると傍に腰を下ろした朝人の手をぎゅっと掴まえた。

 スケジュールにも、邑井家の環境にも、父の世話にも、そして己の身だしなみにも寸分の乱れさえ許さない。常に丁寧で完璧、美しく清廉であるのが嶋山朝人という執事だ。

 その完璧主義は非日常的な状況にあっても変わらず、見ると彼は畳の上にきっちりと正座している。

「朝人さんの手、骨張ってて男らしいね。綺麗だし、色っぽくて好き」

 たった一ついつもと違うことといえば、今の彼がいつもの白い手袋をはめていないことだ。その手に指を絡めながら、ぽつぽつと呟く。

「私、朝人さんが紅茶を準備してくれるときにいつも手を見ちゃうの。手袋してるから細かいところまではわからないけど、綺麗だなって思ってて……」
「随分褒めてくださいますね」
「うん。こんな風に触れる機会なんてないから、嬉しくて」
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