お嬢様は完璧執事と恋したい
朝人に手を離されてしまうかもしれないと予測していた澪だったが、意外にも彼が手を振りほどくことはなかった。
「朝人さん、恋人いないの?」
「いないですよ。まあ、仕事が恋人みたいなものなので」
「そ……そっか」
いつもなら拒否されてしまう澪のスキンシップを受け入れてくれる。それが誘拐の恐怖に耐えたご褒美か、澪の無言の命令だと思っているのか、それともただの気まぐれかはわからない。けれど朝人に子ども扱いされていることだけはわかる。
それも当然だろう。いくら澪が朝人に想いを寄せても、毎日近しい場所で接していても、至近距離で見つめ合っても、二人の間には十二歳の年の差がある。その壁はあまりにも高く分厚く頑丈で、澪がいくら手を伸ばしても届かないし、想いを伝えても跳ね返されるし、壊そうとすると止められてしまう。
「私が、あと十歳大人だったらなぁ」
甘やかされて、子ども扱いされて、歳の差という壁を見せつけられるたびに思う。確かに二人は雇われた執事と主の娘という関係である。それでも朝人が振り向いてくれるなら、父に内緒で関係を深めて、恋人になることも出来るだろう。
だが肝心の朝人にその気がない。澪を子ども扱いして、恋人どころか女性としてすら意識してくれないのだ。
「お酒は飲めるしあと一年半で社会人になるけど、朝人さんにはまだまだ釣り合わないよね」
「……お嬢様」
「自分でお仕事してお金を稼げるようにならなきゃ、贈り物もできないもの」