お嬢様は完璧執事と恋したい
澪がいくら年齢を重ねても、同じスピードで朝人も歳を取る。お互いに同じように数を増やしていくので、近付くことも離れることもないまま永遠に追いかけっこをするのが『歳の差』というものだ。
だからきっと何年経っても同じ。澪が自立しても、仕事を始めて自分の力でお金を稼いでも、そのお金で朝人のためのプレゼントを選んでも、彼はずっと澪を子どものように扱うのだろう。
こうやって温泉宿で二人きりなったとしても、何も起こらない。いつまでも女性として意識されないのはわかっている。それでも――……
「……お嬢様?」
朝人に問いかけられた澪は返答の代わりに首を縦に動かした。だが朝人の声音から、自分の感情が伝わっていないことを察する。
だから手を伸ばそうと思ったのに、上手く力が入らなかった。握った朝人の手の感覚も感じ取れない。
「……私も、もう十歳若かったら、と思いますよ」
ぼんやりと開閉する瞼の向こうに朝人の笑顔を見つける。普段は無表情か澪の扱いに困惑するような表情が多い彼が、珍しく微笑んでくれている。その姿に、笑うと幼く感じるんだぁ、なんて考える。