お嬢様は完璧執事と恋したい
「あと十歳若かったら、余計なことは考えずに自分に正直になれたでしょうね」
大きな手が澪の頭をゆっくりと撫でてくれる。優しく、丁寧に、愛おしむように、大切なものに触れるように。
それが繋いだ手とは反対の、朝人の右手だとわかるかわからないかのうちに、より深いところへ意識が沈んでいく。
「でもまあ、あと十歳若かったらこんな手段も考えなかったと思うので。難しいところですが」
こんな手段? と問いかけようと思ったが、まったく声にならなかった。朝人のその台詞を最後に、頭を撫でられる心地よさを感じていた澪の意識は、夢の中に落ちていった。
「お嬢様は知らないでしょうけれど、いくつ歳が離れていようと、男は男なんです。それがわからないうちは、あなたは“可愛いお嬢様”のままですよ」
だから朝人が最後に呟いた台詞の意味を、眠りの世界に誘われた澪はとうとう知らないまま。
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翌朝、朝日の気配を感じてぼんやりと目を覚ました澪は、寝る前は確かにスーツ姿だった朝人が浴衣姿で隣で寝ていることに気がついた。はだけた浴衣の隙間から普段は決して見ることのない彼の胸元が垣間見え、思わず大絶叫する。
この時の澪はまだ知らない。昨晩『あなたが寝るまでの間』と約束していたはずなのに、その後温泉に入ってきた朝人が結局は澪の隣で眠っている、本当の理由には。