お嬢様は完璧執事と恋したい

 父はパーティという公的な場ではなく、もっと個人的な場で引き合わせさえすれば、二人の関係が進展すると思ったのだろう。いくら澪でも客人を置き去りにして逃亡するはずがないと踏んで、わざわざ神野をここに呼び出して自分は席を外したのかもしれない。そうすればいきなり縁談がまとまるとまではいかずとも、二人の間に何かが生まれるかも、と期待したのかもしれない。

 だが澪には神野のことを考える余裕などない。頭の中も心の中も、いつだって朝人のことでいっぱいなのだから。

「もう長い間、その人のことが好きで……全然振り向いてくれる気配はないんですけど、諦めたくないんです。だから、その……ごめんなさい」

 拙い言葉なのは自覚している。この告白を、想い人である朝人本人が背後で聞いていることも理解している。

 父のため、会社のため、と言われると、社長令嬢として甘やかされて生きている今の澪には何も言えない。けれど自分の気持ちには正直でありたいし、嘘はつきたくない。

 もちろん今はまだ学生なので回避できているが、社会人になった途端に政略結婚が推し進められてしまう可能性はある。それでも澪は望まない婚姻を受け入れるつもりはない。――どんな状況でも、この恋を諦めたくはないのだ。
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