お嬢様は完璧執事と恋したい

「朝人。こんな一途に想われてるのに、君は応えないつもりなの?」
「……え?」

 真剣な気持ちを伝えようと前のめりだった澪は、ふと表情をゆるめた神野が言い放った台詞に虚を突かれた。びっくりして顔を上げると、神野の視線が澪ではなく背後に立つ朝人に向けられていることに気づく。

「え? えっ、と……?」

 振り返って朝人の顔を見つめ、首を傾げる。今日初めてここにやってきたはずの神野の口から、朝人の名前が出てくる理由がわからない。朝人は邑井家に仕える執事の一人であって秘書ではないし、父の会社の運営にも関わっていない。二人が知り合う機会などないはずだ。

「お嬢様、彼は私の中学までの友人なんです」
「こらこら、今もちゃんと友人でしょ」
「……どうだろうな」

 澪が困惑していると、傍に寄って来た朝人が簡潔に二人の関係を教えてくれる。その言葉に神野が苦笑すると、朝人はため息混じりに神野を突き放した。

 未だ混乱したままの澪に、今度は神野がこの状況の経緯を説明してくれる。
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