お嬢様は完璧執事と恋したい
中学まで朝人の同級生で友人だった神野は、義務教育を終えるタイミングで『神野不動産ホールディングス』の経営と関係が薄い母方の叔父夫婦が住むアメリカへ留学した。会社をめぐる親族間の諍いに巻き込まれた彼の渡米は、留学というよりも国外へ一時避難するという意味合いが強かったらしい。
数年後、身辺が落ち着いた神野は日本へ帰国した。戻ってきてすぐに連絡を取った二人は、それから今も昔と変わらない関係を続けているという。
友人同士の朝人と神野だが、業種が近い澪の父と神野が知り合ったのはただの偶然らしい。さらに父は自分に仕える執事と娘の婿にしたいと考えている男性が友人関係にあることを未だに把握していないとのこと。
神野は楽しそうだが、朝人はうんざりと不満げだ。そんな二人を見比べた澪は、ふと神野の真意に気付く。
「では私のことも最初から知っていて……?」
そう思えば辻褄が合う。パーティのときからやけに気遣われていたこと。父を通して再度会うことになったこの状況。一度しか会ったことがないのに結婚に積極的な態度。年の差を気にしない――というより、年齢差をどう思っているのかを探るような視線。