お嬢様は完璧執事と恋したい
ならばせめて、まったく心が動かないパーティを乗り切るためのご褒美が欲しい。
例えば。
「朝人さんがハグしてキスしてくれたら今夜のパーティも頑張――って、早っ!」
朝人におねだりをしようと思ったが、振り返るとすでに彼の姿が見当たらない。代わりに遠くから沢城と須藤の話し声が聞こえてくる。朝人から報告を受け、準備していたドレスを澪に着せるためにここへやってくるのだろう。
「……もう」
重たい気持ちがさらに沈み込む。
大学に入学するまでは、執事である朝人を呼び捨てにしていた。父や母は彼を名字で呼ぶが、澪は最初から名前で呼んでいた。
ほのかな恋心はそれ以前から自覚していたが、大学入学を機に少しでも女性として意識してほしくなり、『朝人さん』と敬称をつけるようになった。恋慕と尊敬を抱く年の離れた相手に対して、大人の女性ならばそうするのが自然だと思ったからだ。
だが最初にドキドキしながら『朝人さん』と呼んだときの彼の反応は、一瞬返答が遅れただけ。特にその呼び方に言及するでもなく、あっさりと受け流されて『はい』と返事をされたことが悔しくてしょうがなかった。
それでも澪の気持ちは変わらない。父に紹介されるどんな素晴らしい男性よりも、澪にとっては朝人の方が眩しく思えた。