お嬢様は完璧執事と恋したい
「ええ。珍しく朝人が困ってると聞いたので、どんな方なのか興味があったんです」
「こ、困ってる……」
そう、神野は邑井建設の社長令嬢に興味があったのではない。彼は最初から、友人である朝人を困らせている存在の澪自身に興味があったのだ。
しかしはっきりと朝人の困惑を示されるのは悲しい。自分でも彼を困らせている自覚はあるが、それも澪にとっては精一杯の気持ちの表現なのに。十二歳も年の離れた朝人に少しでも興味を持ってもらい、少しでも彼に近付きたいという乙女心なのに。
「で? 朝人は澪さんの告白には応えないの?」
「当たり前だろ、今の俺がお嬢様の気持ちに応えてどうする」
「うっ……」
何気ない神野の質問は朝人がバッサリと切り捨てた。あまりにも清々しい拒絶の台詞である。いくら迷惑に思っていても、もう少しぐらい優しい拒否の言葉だってあるはずなのに。
めそめそと落ち込みそうになる澪に、神野が慌ててフォローに入る。
「大丈夫ですよ、澪さん。朝人は『今の俺が』と言ったでしょう?」
「……え?」
神野の確認に再び顔を上げる。呆ける澪の姿を見た朝人が、コホン、とひとつ咳払いをした。