お嬢様は完璧執事と恋したい

「しかもあそこの会社、新副社長も結構いい年齢ですし、次の専務もあんまり有能じゃないですから。きっとすぐに不満が出て、朝人はトントン拍子でさらに出世することになりますよ」
「おい、うっすら人の会社の悪口を混ぜるな」

 神野が楽しそうに説明すると、朝人が呆れたような声を出す。

 何やら楽しそうな二人だったが、澪の頭の中は『朝人と別の関係になれるかもれしれない』という可能性で埋め尽くされた。

「というわけで、朝人はそのうち会社の重役になる可能性が高いんです。邑井建設には及ばないかもしれませんが、そこそこ大きい会社の重役なら社長も朝人と澪さんの関係を認めて……」
「一史、お前本当に何しにきたんだ? 余計なことを言いに来たのか?」
「えー、違うよ? 俺だって友人の恋を真剣に応援してる」
「……友人の恋?」

 二人のやりとりを呆然と見つめる澪の耳に、再び予期せぬ言葉が響く。澪がオウム返しに呟くと、ふいに目が合った朝人がフッと笑みを浮かべた。

「本当はお嬢様の卒業まで、傍にいて差し上げたかった。でもこの機会を逃せば――異動を受け入れて昇進するという手段でも使わなければ、ただの執事が歳の離れた大企業の社長令嬢を手に入れることは不可能なんですよ」
「……朝人、さん」

 朝人の切ない表情の奥にあるのは、熱を帯びた静かな決意だ。
< 53 / 61 >

この作品をシェア

pagetop