お嬢様は完璧執事と恋したい
2話
「澪、こっちに来なさい」
パーティホール内で他社の令嬢である友人たちと談笑していると、遠くから父に呼び出された。
せっかく久々に会う友人たちと他愛もない雑談や近況報告をしながらお酒を楽しんでいたのに、こうして話の腰を折られるのは何度目だろう。諦めと呆れの表情を零すと、彼女たちは「頑張れ」と笑って行きたくもない父の元へ送り出してくれた。
手にしていたワイングラスを給仕の男性に下げてもらって父の傍へ寄ると、隣に見知らぬ男性が立っていた。その人物は澪の姿を認めると、すぐに会釈して人のよさそうな笑みを浮かべる。
「神野くん、娘の澪だ」
「はじめまして、澪さん。神野不動産ホールディングス本社で専務取締役をしております、神野一史です。どうぞよろしくお願いします」
「……邑井澪です」
またか。という言葉はどうにか飲み込んだ。
父から取引先の重役や知り合いの医師や弁護士を紹介されるという状況は、今いま始まったことではない。むしろまだ社会人にもなっていない大学生のひとり娘を社交の場に連れ出す理由は、これがすべてと言ってもいい。
父も自分の後を継ぐに相応しい入り婿を探そうと必死なのだ。もちろん澪も、その気持ちがまったく理解できないわけではないけれど。