へっぽこ召喚士は、もふもふ達に好かれやすい 〜失敗したら、冷酷騎士団長様を召喚しちゃいました〜
リヒトがするりと馬から降りていったのも気づかずに、豪華絢爛な王宮を眺めていると、ぐいと手を再び引かれた。
横座りのために簡単に体勢は崩れ、ミアは気がつけばリヒトの腕の中にいた。
「団長……?」
「少し黙れ」
荒々しく吐き出したリヒトの声に、口をつぐんでしまったがミアは動揺を隠しきれないでいた。降りるのが遅いミアを無理くり降ろした、ならまだ分かる。
だが、リヒトは両腕でミアを抱えたまま一向に離す気配がない。
「この場にお前を連れてきたくは無かったが……」
「?」
「俺が傍にいる。何があっても離れるなよ」
こんな王宮を前にして単独行動を取るほど間抜けに見えているのだろうかと、自分が情けなくなっていると、優しい手が頭を撫でた。
「行くぞ」
いつにも増して真剣な面立ちで瞳を覗かれ、背筋が伸びる。離された腕に、少しだけ寂しさを覚えつつ、リヒトが進む道を辿るようにミアも王宮の敷地内に足を踏み入れた。
リヒトは胸元のバッチを門番に見せると、そのまますんなりと奥へと通される。
広い敷地内を迷うことなく進んでいく彼の背中を追いかけながら、一生を賭けても返せない額になるであろう装飾品を前に背筋に冷や汗が流れる。
決して何かに触れることをせず、せっせと後を追いかけて辿り着いた先には、重厚感のある古めかしい扉が待っていた。