へっぽこ召喚士は、もふもふ達に好かれやすい 〜失敗したら、冷酷騎士団長様を召喚しちゃいました〜




 だが、自分だけ安全なこの場所に残ることがどうしても許せなかった。

 強く想う相手にもう二度と会えなくなるのでないかと、不安は拭えない。



「生憎、俺は死ぬつもりはない。だから、そんな顔をするな」



 頬を触れる手は力強く温かい。リヒトを感じられるこの時間を、失いたくはなかった。

 溢れそうになる涙を堪えていると、くいと顎を持ち上げられる。リヒトの真っ直ぐな瞳が、悲しみに支配されるミアに道標を与えるように輝いた。



「俺には守る責務がある。騎士団の団長としてこの国を、そして――一人の男として大切な人を、俺は守り抜く」


「え……」



 微かに笑うリヒトは、ミアに触れるか触れないか分からないキスを額に落とし、惜しむようにミアの頬から手を離した。



「後は任せた」



 踵を返して歩き出すと振り返ることもなく、獣舎から遠ざかって見えなくなっていくリヒトの後ろ姿を、ただ黙って見つめた。

 彼に託された自分の任務に、ミアは力強く頷いた。



 私は足でまといなんかにならない。絶対に、皆の力になる。もう、昔の私じゃないんだから。



 滲んだ涙を強く拭い、緊張感を察知して落ち着きのないヒポグリフ達を一匹ずつ、ぎゅっと抱きしめる。








< 156 / 202 >

この作品をシェア

pagetop