へっぽこ召喚士は、もふもふ達に好かれやすい 〜失敗したら、冷酷騎士団長様を召喚しちゃいました〜
湖の水は枯渇し、見る影もない。
だが、そこには神秘的な空気が流れている。
身を守っていた霧が消え、大きな岩に埋め込まれた、赤く光る魔石の中へと光の粒になって吸い込まれていく。
か細い光は、いつ消えてもおかしくない程弱い。
「そこに居るのね」
声はもう聞こえてこないが、ミアには感じる。
優しさの中に力強さを秘めた力の持ち主が、そこにいるのだと。かの昔に、賢者ロベルツが召喚したという神獣が。
実体はないというのに、力を未だに使いこなせるのはやはり神獣だからだろうか。
これから神獣を召喚するという事に、今更ながら興奮と緊張が織り交ざる。
「へっぽこな召喚士の私だけど、お願い。どうか皆を助けて」
願いを込めながら、これまでに練習してきた全てを捧げるように魔法陣を描く。
魔法陣に浮かぶ文字達は、規則正しく正確に形を並べる。一文字足りとも歪んではいない。
渾身の力を込めた魔法陣は、ほぼ完成に近い。
焦ることなく丁寧に描き、溢れる光が宙に泳いだ。
後は、神獣と共鳴するだけだと召喚術を発動させるつもりだった。
「……なんで?」
どれだけ召喚術を発動させようと、魔力を注ぎ込んでも術が発動しない。