へっぽこ召喚士は、もふもふ達に好かれやすい 〜失敗したら、冷酷騎士団長様を召喚しちゃいました〜
「団長……!!」
我に返ったミアは伸ばされたリヒトの手を掴み、その場から抜け出すと、重たくのしかかっていた黒い影のようなものが呻き声を上げる。
「あれが、邪神バハムート……!」
巨体に影を纏い、赤く染まる二つの鋭い瞳でミアを睨みつける。
まだ完全に封印が解けきっていないその身体は、朽ち果てたまま。
バハムートから距離を取るようにリヒトが獣人化し、人とはかけ離れた力で高く飛ぶ。
『おのれっ!我に力を捧げていればいいものをっ!』
広げた翼の片翼は、根元から引きちぎられ飛ぶことはもう二度と出来なくなっていた。
それでも片翼を羽ばたかせるだけで、突風が巻き起こる。
体勢を崩しかけるリヒトが、顔を少し歪めたが突風に抗うように白い風がミア達の背中を支えた。
『まったく。困った奴らだ』
「フェンリル!」
二人を背に乗せて、綺麗に着地したフェンリルが鼻を一つ鳴らす。呆れた表情を浮かべてはいるが、二人の無事を確かめられて安心したのか、軽く尻尾を振った。
フェンリルの背から降り、怪我を負っていない二人にひとまず安心して、胸を撫で下ろそうとするが、リヒトの鋭い声に背筋が伸びる。
「ミア」
「はっ、はい!」
「帰ったら、始末書を提出するように」
「えっ?!」
危機的状況を脱していないというのに、始末書を書かされるという未来に困惑を隠せない。