へっぽこ召喚士は、もふもふ達に好かれやすい 〜失敗したら、冷酷騎士団長様を召喚しちゃいました〜
目の前にいるリヒトは、確かに紛れもなく獣耳と尻尾があるのは間違いない。だからと言って、彼を神獣の末裔だと受け入れることは容易いことでは無い。
それにユネスは獣人という姿形がハッキリと分かるリヒトだけでなく、至って普通の人の姿をしている自分自身も獣人だというのだから、尚のこと理解出来ない。
混乱しっぱなしのミアの頭に追加の衝撃を与えても尚、ユネスはそれを無視して話を続けた。
「僕らには、懐古の月《ノスタルジアムーン》と呼ばれる、微弱な魔力を放つ月によって獣人の血が濃くなってしまう時期があるんだ。各々によってその月の魔力を感じる月には、差があるんだけど」
「魔力を放つ月、ですか」
「普通の人には何も変わりないのない、ただの月なんだけどね。それで絶賛リヒトは月の力によって、獣人真っ盛り〜ってわけ。ミアちゃんがリヒトを召喚しちゃったのも、それが引き金だったって事」
「俺が元凶とでも言いたいのか?」
「実際そうでしょ。力の制御が出来ないせいで、ずっとイライラしてるじゃんか」
「黙れ」
事実を述べられ不貞腐れるように唸るリヒトに、ユネスはどこか楽しそうにおちょくっているのをヒヤヒヤしながら眺めていることしか出来なかった。
頭は混乱するばかりだし、この場にいて気が休まらないし……もうどうしたらいいの?
誰かに助けを求めたいけれど、目の前にいる上司にそんな弱音を吐いたら即刻クビになる未来しか見えず、涙目になって堪えるしかない。
「契約を解消するのには最低でも三ヶ月は契約を結んでおかないと、互いの命の危険性があるからね」
「ったく、こんな奴に選択肢を与えず、さっさと魔獣達の餌にでもしておけば良かったか……」
ため息混じりに怖いことを吐き出すリヒトは、冗談抜きで言ってるとしか思えなかった。